回答集(2009年11月)
Q1:単元学習中はゲーム等を通して単語や文を覚えているが,週1回なので次時に忘れてしまう。児童の記憶に残すにはどうすればよいか。
A1:週1回の活動なので,先週やったことでも忘れてしまうことがよくあると思います。人間の脳は機械的で意味のないことは,いくら繰り返してもなかなか記憶に残らないと言われています。例えば,交通信号を毎日見ている人であっても「信号の赤は右側にあるか,左側にあるか」と問われると即座に右か左か答えられない人が多いとよく言われます。これはどうしてかと言うと,赤が右か左かは意味がない(重要でない)からです(松畑『英語教育人間学の展開』)。ですから機械的に毎日繰り返し見ても記憶に残らないのです。繰り返すことは大切ですが,そこに「意味」を持たせることが大切でしょう。ただし,大量の単語や文を記憶させることが外国語活動の目的ではありませんので,定着させることをあせる必要はないと思います。単語や文は「慣れ親しませる」程度でよいと思います。
Q2:英単語を板書することによって、児童の記憶を助けることができるが、読む活動になってしまうのだろうか。児童は文字を絵や記号としかとらえていないので読んでいるわけではないのだが。
A2:「ある単語を読めないと活動できない」ということになると問題ですが,記憶を助けるための板書は問題ないと思います。Apple とう単語をみると,単語の最初の文字のAをみて「りんご」のことだなと思い出す程度で良いと思います。
Q3:日本語ガイド(カタカナ表示)をして理解させようとしているが、反対意見もある。低位の児童への理解の補助として視覚的支援は有効だと思うが、いつまでもそれに頼ってはいけないのか。
A4:カタカナは英語の音を表すことができないことをまず理解しておく必要があると思います。例えば,brother はカタカナで書くと「ブラザー」になってしまい,英語の音とはかけ離れたものとなります。舌を軽く噛む /th/ の音はカタカナでは表せないのです。カタカナをふらないと覚えきれないような文章なら,児童にとって長すぎる文章であると判断したほうが良いかもしれません。長い文章を覚えさせるために,カタカナ読みを無理にさせる必要はないと考えます。蛇足ですが,逆に英米人が日本語の「ひらがな」を学習する場合は,「ひらがな」さえしっかり理解できていれば,日本語の音はすべて表記することができます。ですから,英米人にとっては「ひらがな」でそのまま日本語を書き留めることができ,そのまま読んでも何の問題もおきません。
Q5:文字指導の単元は6年の最後に行おうと思っているがそれでよいか。
A5:「文字指導」がどこまでの指導を意味しているかにもよります。文字を見せることも文字指導に含めるなら,5年生から文字指導を開始しても構わないと思います。また,英語の音を聞いて文字を書く(ディクテーション)を文字指導に含めるなら,6年生であっても不要だと思います。②と関連しますが,文字は記憶やコミュニケーションの助けになると判断した場合に使用するとよいでしょう。
Q6:同学年複数学級あるため、指導内容や方法の打ち合わせが必要だし、ある学級でやってみた結果を次の学級担任に伝えたいこともあるが時間がとれない。(同じ日にあると伝えられない)
A6:なかなか難しい問題ですね。時間がとれないならメモを利用する方法も検討されるといいかもしれません。私は現在附属中学校の校長を併任していますが,個々の先生方と会ってお話する時間はほとんどありません。メモとメールで気持ちを伝え合っています。もちろんどうしても会って話をする必要がある場合は,会って話をしています。先生方どうしの掲示板などを作っておき,気軽に書き込んで伝達事項をタイムリーに伝える工夫も必要かもしれませんね。
Q7:ALTが来るのが不規則なので、どの単元のどの時間に来てもらうと有効かなどと考えることができない。HRTが全時間一人で行うつもりでしているが、もし突然ALTが来ることになったら内容を組み直さなくてはならない。また、前日に来てもらうこともできないので打合せができない。更に、指導方針に違いがある(学習指導要領を渡し、その都度説明はしているのだが)。
A7:突然ALTが来るような状況はシステムに欠陥があるので,そこはシステムの問題として解決していくしかないと思います。ALTが来たときは,できるだけALTの役割(良さ)を引き出すように授業を作ることが大切だと思います。ALTの良さは何といっても生の英語の提供者であり,また,自らの文化の体現者であるということです。ALTが来校した時は,授業でALTの良さを最大限に引き出すことが大切と思います。また,ALTが学習指導要領を十分理解していないとなると問題です。自分の国でやっていた方法や内容,自分が学んだ指導法を学習指導要領の目的や内容を無視して押し付けることがあってはいけません。日本の外国語活動の目的や内容は世界的にみてもユニークなものです。JETプログラムや市が雇用する外国人教師の場合は,雇用主体が学習指導要領の目的や内容,指導法など,十分オリエンテーションをする必要があると思います。それでも不十分な場合は,各学校で,指導方針を粘り強く,繰り返し説明することが必要になるかもしれません。
Q8:支援が必要な児童は、ゲームへの参加も難しい。できないので劣等感につながる。周りの児童に教えられることもいやがる。ゲームが競争になって生き残れない。間違いを楽しむようなゲームになりがち。
A8:このような状況を解決できるのは,担任の先生でなければ難しいと思います。支援が必要な子と言ってもさまざまなケースがあると思いますので,個々のケースに柔軟に対応することが求められるでしょう。ゲームは英語ができる子が勝つようなものではなく,偶然性などによって勝敗が決まるようなものを選ぶと良いと思います。できない子が負けてしまうようなゲームでは,意欲がそがれるばかりか劣等感を植え付けるものとなるでしょう。
Q9:1年から4年までの指導計画(裁量時間年間低学年8時間(15分×24でもよい)中学年10時間)も作っているが、以前の総合的な学習でやっていた時期より時間がない。幼稚園等でも英語を話していて小学校入学で英語を話す機会が減っているようにも思う。高学年につなげるために、少ない時間数で最低限教えておくべきことは何か
A9:1年生から4年生までをどうするかというのが,英語を先進的にやってきている学校の共通の悩みのようです。低・中学年では学校の裁量の時間に,また,中学年では総合的な学習の時間を活用することになりますが,その場合は総合的な学習の時間の理念に合った内容を扱う必要があります。いずれにしても,高学年につなげるためには,学習指導要領(外国語活動)の三つの柱(目標)を意識しつつ,その学年の発達段階にあった活動を行うことが大切と思います。
Q10:チャンツは英語独特のリズムや音節も考えて作らなければならないと思うが、素人には作る自信がない。
A10:自作のものを無理に作る必要はないのではないでしょうか。(質問の意味をあまり理解していないのかもしれません)リズムやイントネーションに慣れさせるためのものですから,既製のものを上手く利用すると良いと思います。
Q11:授業の終わりに振り返りの時間(書く活動)が必要か。どのような振り返りをすればよいのか。
A10:授業の終わりに本時を振り返り,まとめをすることは必要だと思います。さまざまな方法があると思いますが,ごく一般的に行われているのが「振り返りカード」に書かせるという方法です。「カード」に書かせたあと,数名の児童を指名して本時の感想など言わせている授業もよく見かけます。毎日,同じカードで同じ規準と基準で○を付けさせるような方法だと児童も深く考えずに○をどんどん付けていく傾向が見られますので,理由を書かせるなどの工夫も必要かもしれませんね。
Q12:よかれと思ってしたことがよくないこともある。失敗例を教えてほしい。
A12:ある授業で,児童が何枚のカードを集めたかを聞く場面がありました。児童は5枚のカードを集めたので,右手を開いて5本の指を示し,「ファイブ カード」と言ったのですが,英語専科の先生に,しつこくfive の/f/ の音,/v/ の音を直されていました。しっかり発音して欲しいという専科の先生の気持ちは分かりますが,「5枚のカード集めた」ということが伝わった時点でコミュニケーションとしては十分成り立っている場面でした。学習指導要領はコミュニケーションを重視するといっているわけですから,そのことを十分理解する必要があります。発音を何度も直された児童は,もう二度と英語を話したいとは思わないはずです。
同じような例ですが,What do you want for Christmas? という質問に I want to have a baseball bat. などのように応えるという活動を見ました。ALTの先生がWhat do you want for Christmas? と質問すると,児童は computer game とか,bicycle などと答えていました。担任もALTも I want to have を前につけて言うように促したのですが,児童はほとんどcomputer game とか bicycle の単語のみで答えていました。言語習得の過程では,まず「意味」に注意が行き,その後に「形式(文法など)」に注意が行くと言われています。子どもにとっては,computer game という意味に注意が行っており,I want to have まで注意を払うことは,多分,難しかったのではないかと思われます。むしろ,I want to have と言わなくても十分意味は伝わるということを無意識に感じているのかもしれません。同じような活動を中学校の授業で行うと,多分中学生は I want to have までは大きくはっきりと言うのですが,肝心な欲しいもの(例えばbaseball bat)に強勢を置かないと思います。これは意味よりも,無意識かもしれませんが,文型(I want to have を言えること=スキル)が強調されているからだと思います。言うまでもなく小学校外国語活動はコミュニケーションを重視すべきです。この事については当日の研究会でも言及したいと思います。
その他のNGについては,成美堂のHPに連載していますのでそちらもご覧下さい。https://www.seibido.co.jp/kids/advance/advance3-1.html
以上,コミュニケーションの観点からの「よかれと思ってしたことがよくなかった例」を挙げてみました。
(回答日 2009年11月)