回答集(2010年6月)
先生方から頂いた質問に対して私なりに回答を試みてみました。私の誤解や理解不足もあるかもしれません。あくまで,参考にしていただけると有難いです。
Q1 英語ノート関連(国の補助が打ち切られましたが,「英語ノート」はこの先どうなるのでしょうか。「英語ノート」がなくなったら,何を使って授業をすればよいのでしょうか。他に何か教材があるのでしょうか。学校(クラス)独自の教材よりも「英語ノート」の方がいいでしょうか。
A1 昨年の「事業仕分け」によって,「英語教育改革総合プラン」は「廃止」という結果が出ました。このプランの中に「英語ノート」の全国無料配布も含まれていました。文部科学省には15万3,000件を超える意見が寄せられ,特に,「英語ノート」の廃止については反対意見が多数ありました(私も反対意見のメールを出しました)。これを踏まえ,文部科学省は成21年12月22日付けのHPで、以下のように条件付きで「英語ノート」を復活する対応を示しました。
平成22年度と23年度の2年間は「英語ノート」が無償配布されることになります。しかし,平成24年度からはどうなるのでしょうか。必要な自治体は有料で購入することになるだろうということも聞いています。価格設定はどの程度になるのでしょうか。市町村によっては「英語ノート」ではなく市販の教材を使ったり,独自の教材を開発したりするところが出てくるかもしれません。 各学校や自治体でそれぞれの方針を決めていくことになるのでしょう。
英語ノートには電子教材(電子黒板対応)もついています。このような教材を学校や市町村独自で作成するとなると相当な経費や労力が必要でしょう。英語ノートや電子教材を上手く活用する書籍も出版されているので,これから外国語活動に取り組むという学校は,まずは英語ノートを使ってはいかがでしょうか(もちろん,英語ノートは完璧というつもりはありませんが)。既に何年も英語活動に取り組んできたところは,これまでの積み上げを大切にし,独自の教材を使うことも考えられるでしょう。その場合は新しい「学習指導要領」に沿った教材になっているかどうかを検討することも大切です。
Q2 小中連携関連(小学校外国語活動と中学校英語とのギャップを少しでも少なくするための方法を知りたいと思います。小学校で習った英語がどのように中学校で役立つのでしょうか。
A2 中学校では小学校の外国語活動を十分踏まえたうえで活動を計画することが大切と思います。中学校に入学した生徒が,「小学校で英語をやって良かった」と思う時は,「小学校で習った単語や表現が使われた時」(76%)と答えています。
私たちが調査したところ,中学校の1年生の教科書で出会う単語の50%程度は既に小学校で慣れ親しんでいる単語です。既習事項をうまく取り入れて生徒の負担が少ない中で中学校英語へとつなげていくことが大切と思います。なお,「中学校で英語が楽しいと思う時はどんな時ですか」という質問に対して「小学校で習った歌や活動がある」と答えた生徒は20%程度です。同じものをそのままやるのではなく,中学校段階にふさわしい味付けをして実施することが大切と思います。
「小学校で習った英語がどのように中学校で役立つのか」ということについてです。これまでの研究開発学校の報告をみると情意面(例えば「英語が好き」と答える児童が多い)では望ましい結果がでています。一方スキル面の追跡調査ではさまざまな結果が出ています。R小学校における私たちの研究では,小学校卒業時点で,児童英検ブロンズで9割程度,シルバーで8割程度の達成率であったことが分かっています。
私は小学校で「コミュニケーション」を重視した活動をすることによって,strategic competence が養成されるのではないかと考えています。これが中学校以降のコミュニケーション活動に大きく影響を与えることを期待しています。この事については別のところで詳しく述べたいと思います。
Q3 音声と文字の関係(学習指導要領には音声を中心にと書いているが,文字は導入してもいいのでしょうか。文字の読み書き指導がどこまで求められているのでしょうか。)
A3 「文字の導入」が何を意味しているかにもよります。文字を見せることも文字指導に含めるなら,5年生から文字指導を導入しても構わないと思います。また,英語の音を聞いて文字を書く(ディクテーション)を文字指導に含めるなら,6年生であっても不要だと思います。小学校では,あくまで「文字に慣れる」ということを基本にして,文字の導入を考えるとよいと思います。
参考までに「学習指導要領解説」では次のように説明しています。
小学校外国語活動におけるreading とwriting の役割については,「小学校外国語活動研修ガイドブック」には以下のような記述があります。
書くことの活動例:音声で慣れ親しんだ単語や身近な単語が読めるようになったら,同じ単語・語句・文を書き写したりする活動から始める。ただし,あくまでも児童の負担に配慮すること。
Q4 ティームティーチング関連(担任とALTまたは地域人材(JTE)とのTTではどのような点に配慮したらよいのでしょうか。)
A4 効果的なTT授業や単独授業を展開するために以下のような点を考慮するとよいと思います。
(1)担任の役割(「外国語活動研修ガイドブック」より)
①児童の興味・関心に基づいて活動計画を立て,指導内容や活動を考える。
②ALT等と協力して教材や教具を準備する。
③ALT等や児童に指示を出し,授業を掌握し,進行する。
④児童と一緒に活動に参加し,外国語を使うことに積極的な姿勢を見せる。
⑤児童のつまずきに気付き,適切な支援をする。
⑥主に,児童の積極的に外国語を使ってコミュニケーションを図ろうとする関心・意欲・態度や国際理解の面についても評価する。
(2)ALTや地域人材の役割(「外国語活動研修ガイドブック」より)
①学級担任が指導計画・指導内容・活動を考える際に,外国語指導の点から協力する。
②学級担任と協力して教材や教具を準備する。
③言語材料を自然な場面で,児童に話し聞かせるとともに,児童にそれらを自ら発話するように働きかける。
④自国を含めた様々な国の紹介や文化等を児童に伝える。
⑤自然な外国語の使い方や発音を児童に体感させながら指導する。
⑥主に,児童の外国語によるコミュニケーションに対する態度や,言語や文化についての理解について振り返る。
(3)担任単独授業を成功に導くコツ
①クラスルームイングリッシュをできるだけ使っていく。
②担任の強みを最大限に活かし,児童が興味関心を示す題材や内容を授業に盛り込んでいく。
③音声教材や電子黒板を十分使いこなす。
(4)TTを成功に導くコツ
① 指導者同士が外国語活動の目標を十分に理解する。
② 十分な打ち合わせと授業後の教師相互の評価を欠かさない。
③ お互いの長短を踏まえ,お互いの長所を最大限に引き出す。
④ コミュニケーションの場面を児童に見せる。
⑤ お互いを尊敬し,かつ信頼できる人間関係を築く。
Q5 指導方法関連(しゃべるのが苦手な子どもに対してはどのような配慮が必要なのでしょうか。恥ずかしがってカタカナ読みをする児童へはどのように対応すればいいのでしょうか。評価はどうすればよいのでしょうか)
A5 まず,「しゃべるのが苦手な子どもがいる場合,活動を通してコミュニケーションを図れるようになるのか」という点です。「しゃべるのが苦手」という子はどこにでもいると思います。私は「無理強いしない」ことが大切と思います。私は英語科教育法を受講する大学生に毎年「中高で思い出に残る授業について」という題でアンケートを取っています。その中には毎年のように,「読めないのにみんなの前に出されて無理に読まされて恥ずかしかった」「できないのに,やってと言われてつらかった」などのようなコメントを寄せる学生がいます。何かをさせるには十分な準備(心の準備を含めて)が必要と思います。それにも関わらず,成果を早急に求めるがあまり,生徒(児童)に無理強いしてしまいます。もっとゆっくり待つことが必要ではないでしょうか。
次に「恥ずかしがってカタカナ読みをする児童への対応」です。「恥ずかしがる」というのは個人の問題もあるでしょうが,学級の雰囲気もかなり影響があると思います。教師ができることは,恥ずかしがらずに発表できる教室環境を作ることかもしれません。また,カタカナを振らないと発表できないような英語の文章は,児童にとって長すぎると思います。これも成果を早急に求めすぎていると思います。発表会などで長い文を覚えさせようとすると逆にカタカナに頼ってしまいます。チャレンジという言葉は素敵な言葉ですが「無理強い」とは違います。生徒の様子を見ながら実施することが大切と思います。
第3点目に評価についてです。評価は目標と表裏一体ですから,目標(三つの柱)に基づいて様々な手法を利用して統合的に行うことが求められると思います。例えば,教師による行動観察,発表観察,児童による自己評価,相互評価などの方法が考えられるのではないでしょうか。『英語ノート指導資料』(文部科学省)には目標に基づいた評価の例があるので,まずはそれを参考にすると良いと思います。評価については別のところで詳しく述べる予定です。
Q6 小学校外国語活動全般(小学校から英語をしてきた子どもたちと,中学校から英語をはじめた子どもたちの間に何か違いがあるのでしょうか。週に一回の活動で身につくのでしょうか。)
A6:中学校の先生の話を聞くと,英語活動を経験した生徒たちは,例えば次のような文法問題がでるとほとんど間違わないそうです。(話しを分かりやすくするために単純化しています)
1 次の( )の中から正しいものを選べ
(Do, Does)you like apples?
次の語を並べ替えて正しい文を作りなさい。
2 (I, apples, like).
このような問題では,なぜ間違わないかというと,小学校の段階で英語の基本的な表現に慣れ親しんできているからだと思います。逆に言うと Does you という結びつきは聞いたことがないので,「選択肢から排除」ということになるのでしょう。しかし,彼らはなぜ Do を選ぶかということは分かりません。慣れ親しんだけれど,そのカラクリは分からないのです。そこで,中学校ではそのカラクリを指導することになります。慣れ親しんだ分,説明はわかりやすくなると思います。2の問題についても同じことが言えると思います。聞いたこともない文について,最初から「カラクリ(文法)」を説明するより,聞いたことのある文を説明したほうがずっと分かりやすいと思います。
「週一回の活動で身につくのか」ということですが,これはなかなか難しいと思います。私は小学校の外国語活動は空港の滑走路にたとえて考えています。飛行機が飛ぶためには必ず滑走路を走ります。飛んでいないからと言って「あれは飛行機ではない」と誰も言いません。同じように,定着していないからといって,何も学んでいないというのはおかしいと思います。飛べないものは無理に飛ばさないことです。十分走ったら中学校で少し離陸し,高校や大学で高度を上げていけばよいと思います。中学校から始まっていたこれまでの英語教育は滑走路が短かったと思います。滑走路を十分走ってもいないのに「飛べ!飛べ!」と言われたようなものではないでしょうか(言い過ぎかな?)。この事についてはまた別のところで詳しく述べたいと思います。(回答日:2010年6月12日)