徳島県鳴門市林崎小学校 坂田美佳先生の授業 平成25年6月5日

魔法にかけられて変化する授業

~徳島県鳴門市林崎小学校 坂田美佳先生の授業~

 

これまで、数え切れないほどの授業を参観してきました。その中でも、特に印象に残る授業があります。それは、参観者の私が思わず声を出して笑ったり、時には目頭が熱くなる授業です。私の個人的な感想ではありますが、それは、授業づくりのヒントになるかもしれません。そんな訳で、この授業参観記では,私の心に残る授業を連載で紹介させて頂きます。

私の心の中のビデオライブラリーから、今回は、平成25年6月5日(木)に参観した坂田美佳先生の授業を紹介したいと思います。

対象学年は5年生。本時の目標は「1~10の数の言い方に慣れ親しみ、11~20の数の言い方や数の尋ね方を知る」となっています。授業は本時の目標に向かって、まるで一軒の家を建てるように、丁寧に組み立てられていきました。

簡単な挨拶の後、坂田先生とALTの先生との簡単なTeacher Talk がありました。ALTの先生は、”I went to Mt. Tsurugi. I saw many animals. I saw ten monkeys and five snakes.” などと数の言い方を強調しながら、自分の過ごした週末について話しました。本時の目標である数の表現が織り込まれており、自然な会話の中で、まずは聞かせてみる、という本時の目標を視野に入れた“Teacher Talk” でした。

次に、坂田先生は「足し算じゃんけん」をしました。児童が出す指は「グー、チョキ、パー」だけではありません。例えば、一方の児童が人差し指を1本出し、相手の児童が人差し指と中指で2本の指を出したとします。両方の数を足して早く言った人が勝ちとなる「じゃんけん」です。外国語活動の授業では「本時の目標表現を必ず言いなさい」という指示を出しても、活動自体が目標表現を言わなくても出来てしまうものもあります。この「足し算じゃんけん」は、児童が必ず本時の目標である「数字」を言わなければ勝てないようになっています。その点で、優れた活動だと思います。教室の方々から「two!」「five!」「eight!」「ten!」などの声が上がりました。この活動の最後に、坂田先生は「ALTの先生と勝負してみたい人はいますか」と児童に聞きました。多くの児童の手がすっと上がりました。面白いことに、英語力(?)ではALTの先生のほうが勝っているのに、児童のほうが勝ってしまいます。ALTの先生に勝って得意げに「ヤッタ!」と声を上げる児童に思わず笑ってしまいました。

次にALTの先生と「1対全員」の「じゃんけん」をします。これは Hi, friends! にある活動です。児童はALTの先生に勝ったら「〇」、あいこだと「△」、負けると「×」を付けていきます。児童は前回と今回を合わせて20回に及ぶ対戦成績をHi, friends! の中に書き込んでいます。そこでALTの先生は「〇が1つの人、〇が2つの人、〇が3つの人・・・」と聞いていきます。「〇が10個の人」と聞いたあと、ALTの先生は“More than ten?”(10個以上の人)と聞きました。〇をつけた数が10個以上の児童はたまたまいなかったのですが、坂田先生は、「11個の人がいたら何ていうのかな」と児童に問いかけました。児童の中からは“eleven!” という声が上がり、「それでは今日は11以上の数の言い方も勉強してみましょう」と言って授業を展開していきました。小さなことかもしれませんが、練習が始めにあるのではなく、「これからの活動に必要になるので勉強(練習)しましょう・・・」というように授業を展開すると、児童の「気合い」の入れ方が違ってきます。

11~20までの数を導入したところで、坂田先生は「カゴに入ったボール」の映像を見せました。ALTの先生は、“How many?” と聞いて何個のボールがカゴの中に入っているかを児童に尋ねました。児童は“One! Two…” と数え始めましたが、坂田先生は突然映像を消してしまいました。そして、「いくつだった」と聞いて児童に自由に「数」を言わせました。児童は“Eleven”“Twelve”、“Thirteen” などと、自分で想像した「数」を言っていきます。このような場面では、映像を見せたまま、みんなでボールの数を数えることがありますが、そのようにすると、児童一人ひとりの発言の機会が失われてしまいます。映像を消して、「いくつだったかな?」と聞くことによって児童に発言の機会が与えられます。答えを言いたくてたまらない児童は、覚えたての数の英語を元気よく言っていきました。

次に 身近なものを数える活動をします。まずは “How many pencils do you have?”と児童に聞いて、児童に自分の筆箱にある鉛筆を数えさせます。児童は自分の鉛筆を数えるために自然に“One, two, thee…” と発話していきます。児童の鉛筆の数が分かったところで、ALTの先生は坂田先生に “How many pencils do you have?” と聞きました。坂田先生は机の陰から大きな筆箱をとりだして「いくつ持っていると思う」と児童に聞きました。これも児童に発言する機会を与える工夫です。しかも、想像して答えるのですから、児童は思い思いに覚えたての数を言っていきました。最後に、鉛筆を後ろに隠して、いくつ持っているのか当てさせるゲームをペアで行い、授業は終了しました。

授業の成否は、その設計図にかかっています。坂田先生の授業は詳細な設計図ができていました。ですから活動に繋がりがあり、無駄がありません。「数に親しむ」という単純な内容が、まるで魔法にかけられたように、意味のある楽しい活動に変わり、様々な活動を通して、練習したつもりはないのに、授業の終末では、目標である「数の言い方」に十分に慣れ親しませる結果となりました。児童も活動に引き込まれていました。もちろん、見ている私も引き込んでしまう心に残る授業でした。