長崎県波佐見町立H小学校 KS先生の授業
長崎県波佐見町立H小学校
KS先生の授業
2012年の7月、長崎県波佐見町立H小学校のKS先生の授業を参観しました。ベテランの先生でとても強い印象を受けました。その時の授業については私のHPにも参観記を掲載しております。時間がある時に読んで頂きたいと思います。
さて、2012年10月24日には同校で外国語活動授業研究会が開かれました。授業者は、あのKS先生です。私は校務と重なり、どうしても参加することができませんでした。それでも、どうしても授業が見たかったので、授業ビデオを送って頂きました。以下にビデオを観ての感想を記したいと思います。
〇単元名は「1日の生活を紹介しようWhat time do you get up? (Hi, Friends! 2 Lesson 6)」です。単元目標は(1)積極的に自分の1日を紹介したり、友達の1日を聞き取ったりして積極的に交流を楽しむ、(2)生活を表す表現や、1日の生活について時刻を尋ねる表現に慣れ親しむ、(3)世界には時差があることに気づき、世界の様子に興味を持つ、となっています。単元配当時間は5時間で本時はその2時間目になっています。本時の目標は「動作や時刻の言い方に慣れ親しむとともに、生活を表す表現やその時刻を尋ねる表現を知る」です。
〇ルーティンの活動としての挨拶からはじまりました。挨拶の中で指導者は、「今日はたくさんの先生方が来ています。Can you help me? 」と児童に聞きました。もちろん児童は 「Yes, I can!」。児童と教師が、協力し合って今日も楽しく英語を学習しようという雰囲気が一気に作られました。
〇「めあて」の確認がなされました。この活動は、実は総合学習の「交流学習」ともリンクしており、「やがて行われる留学生との交流の時に、自分の1日を紹介できるように」ということも意図していることが児童に示されました。活動にはもちろん目標が必要です。「いつか必要になった時のために・・・」ではなく、「留学生との交流」という間近な、具体的な目標を示したことは、児童の活動の意欲を引き出します。外国語活動は週に1時間しかありませんから、活動内容を深めていくには、なかなか厳しいものがあります。指導者が意図したように、他教科・他領域と上手くリンクさせることによって、内容を深めることが出来ます。「総合」との連携を考えて、上手く構想された授業だと思いました。
〇日常の時間を表すには1~60までの数字が言えなければなりません。そこで指導者は「ナンバーゲーム」という形にして数字を言えることに慣れさせました。やり方は簡単です。まず1~60までの数字が書かれたカードを重ねてグループ(4~5人)の真ん中におきます。次に児童が順番にカードをめくり、出た数字をみんなで言います。一巡したら、それぞれのカードを確認し、一番大きい数字をめくった児童の勝ち、ということになります。このゲームの良さは、みんなで数字を言い合うところにあります。分からない子は分かる子の真似をしながら言うことができます。しかも、英語ができるからといって勝つとは限りません。偶然性に大きく左右されますから、仮に数字をいうことが出来ない子であっても “You are a winner! とグループのメンバーから賞賛される可能性があります。私の友人の金森強氏も「できる子が常に勝つゲームではなく、どの子にも勝つチャンスのあるゲームがふさわしい」というような事を言っています。その点からは、「どの子にとっても優しいゲーム」になっていたと思います。実際、ビデオから児童の様子を見ていると、どの子も楽しそうにゲームを楽しんでいました!
〇次に、動作の言い方を復習します。使われている単語は get up, go to school, go home, go to bed, などです。指導者は動作を表した絵を黒板に貼りながら練習をしていきました。 練習が単純にならないように、指導者はバスケットのシュートの真似をしながら児童からplay basketball などを引き出していきました。たまにわざと間違えて play swim などと言って児童に間違いを指摘させたりします。練習が単調にならないように、しかもstudy at home が出ると、「みんなやってるよね」などと言いながら笑いをとり、練習が一方的にならないようにしています。これなら楽しく練習ができると思いました。
〇動作を表す表現に慣れ親しんだところで、「メモリーゲーム」に入りました。動作を表す絵がグループの真ん中に並べられています(絵が裏返っている?)。音声教材からは I get up. I go to school. I eat lunch. の3つの文が流れます。それを聞いて、聞いた順にグループで協力しながら3つのカードを並べていきます。3つの文でスムーズに出来るようになったら、次は4つの文になり難易度が上がっていきます。この活動は動作を表す英語を聞いて絵を選ぶ訳ですから、リスニングの良い練習になっているだけでなく、次の活動で使う表現の確認にもなっています。また、このゲームは、ナンバーゲームとは異なり、個人差が出やすい活動ですから(遅れている児童にとっては難しい)、グループ全員で協力しあいながら取り組ませたところも良かったと思います。できない子が一人置いていかれることがないように、指導者は活動内容のレベルと子どもの実態をよく把握した上で、活動のやり方(個人ではなくグループで)を考えたのではないでしょうか。なお、授業反省会での記録を読むと、「メモリーゲームは時間軸がばらばらだったのでストーリー性があればよかった(流れが繋がっていればわかりやすい)」という意見が出されています。これは, I take a bath. I eat lunch. I go to school. では、1日の流れとして不自然なので、自然な流れのほうがよい、ということだと思います。「なるほど」という気がしますが、そうすると、英語をしっかり聞かなくても、常識的な流れを予想して絵を並べることが可能になります。私は、指導者の意図は「英語の動作を表す表現をしっかり聞かせる」というところにあったのではないかと推察しています。そうすると、注意深く聞かないと、常識とは異なる流れになるので、しっかり聞かないとカードを順番に並べられません。
〇次にHi, friends! のサクラの1日を見せながら、指導者が動作を表す英語を発音していきます。指導者が言う英語に合わせて児童はその表す絵を指で押さえて確認します。これで準備は整いました。Hi, friends! には、サクラの一日が絵で示されており、起きる時間、学校に行く時間、寝る時間を記入するようになっています。児童はまず、1回目にサクラの生活時刻を全部聞きます。2回目は、それぞれの生活時刻を聞かせます。3回目には、指導者はジェスチャーを交えてゆっくり繰り返します。この活動では、できる児童は1回目で時刻を書き入れていきます。そうでない児童は2回目、そして最後の3回目は、ジェスチャーなどを見ながら行うので、遅れている児童にとってはそこで書き込むことができます。3回目のジェスチャーは、先に書いた児童には答え合わせの役目を果たしています。この活動は、全員が書き込むことができるように、段階を踏ませた活動になっているところが良かったと思います。どの児童にも達成感を味わわせることができます。うまくできていました。感心しました。
〇サクラの1日を英語で聞いたあと、今度は児童の起きる時間、学校に行く時間、寝る時間を聞いていきます。指導者は“I get up さくらより早い at six.”の人、“I get up さくらと同じat six thirty.”の人、“I get up さくらより遅い at seven.”の人などと聞きながら、児童に手を上げさせていきました。児童は、朝6時に起きる人は誰なのか、興味津々で周りを見ていました。やはり、本物の情報(サクラの事よりも)のほうがずっと興味があるのです。同じく「寝る時間」についても指導者と児童の面白やりとりがあるのですが、紙面ではどうも上手く伝えられそうにありませんので割愛します。
〇音声教材(チャンツ)を使いながら What time do you get up? I get up at seven. What time do you go to school? I go to school at eight. などの表現に慣れ親しんでいきます。
〇最後は先生の1日を予想して児童が先生の起きる時間、学校へ行く時間、寝る時間を書き込んでいきます。ここは児童の興味が最も高まった場面でした。児童はそれぞれ自分の予想した時間を書き込んでいました。
〇次の活動は児童の予想した時間どおりなのかどうかを確認する活動です。児童は一刻も早く先生に質問したくてたまりません。指導者はそれを知ってか知らずか、少しじらすように、「キャサリン先生の発音を真似て言ってみよう」と言って電子黒板に登場したキャサリン先生と一緒に再度言い方の練習をさせました。そして “What time do you get up?”と児童に質問させたあと “I get up at five.” と答えました。教室は一瞬にしてざわめきが起こりました。先生の起きる時間が分かっただけなのに、どうしてそんなに嬉しいのでしょうか(笑い)。そして次は学校に行く時間、そして寝る時間が先生の口から語られます。“I go to bed at twelve thirty.” に関しては、いろいろな反応が見られました。やはり友達の寝る時間などでも同じでしたが、身近な人(担任の先生)の1日の時間が最も児童の興味を引きつけるものなのです。ここは、ちょっとチャレンジですが、朝5時に起きて何をするのか(I wash my face. I have coffee and toast for breakfast.など)、また、12時30分に寝るまでの間、どういうことをするのか、易しい英語で児童に聞かせてもよかったかもしれません。児童が知りたいと思っている事なら、児童にとって少し難しい英語でもチャレンジしてくるかもしれません。
〇最後に今日の振り返りが行われました。児童はそれぞれ今日の感想や気づいたことを書いています。ビデオでは、児童の振り返りカードも一瞬写されていたので一時停止にして読んでみました。その中には「先生の寝る時間が1時と予想していたけど12時30分だったので意外でした。」というのがありました。本時の目標は、動作や時刻の言い方に慣れ親しむことです。動作や時刻の言い方に慣れ親しむのは何のためにするのでしょうか。英語はあくまでもツールです。それを使って知りたい情報を引き出せたかどうかがコミュニケーションの観点からは重要です。この児童の「ふりかえりカード」の中の記述は、本時の活動が、コミュニケーションの観点からも成功していたことを表しているものだと思います。慣れ親しんだ表現を実際に使って、自分の知りたい情報を引き出すことができた訳ですから。そして、その事を、今日の一番の感想として児童は書いています。授業終了間際の最後の瞬間に偶然に撮られた児童の感想ですが、今日の授業の成功を裏付けるものとなりました!
〇授業全体を振り返ってみると、やはりベテランの先生の授業という感じがします。「客室乗務員の配慮」という短い文を私のHPに書きました。加藤明は「学校が楽しいのは勉強が分かるからではなく、自分のことを受け入れてくれる友達や、私の良さを分かってくれる先生がいるから」(『プロ教師のコンピテンシー』明治図書)と述べています。KS先生の授業には、児童一人ひとりへの暖かい眼差しが感じられます。そのような配慮があってはじめて、児童はKS先生の事が知りたい。友達のことも知りたい。英語を使って聞いてみよう、という気持ちになるのでしょう。
〇もうひとつ特徴的だったのは、電子黒板が上手く利用されていたことです。画面に登場するキャサリン(?)さんを、まさに、この教室にいるALTにしてしまっていました。必要なところで、有効に活用されていたのが印象的でした。また、Hi, friends!が効果的に活用されていました。KS先生には失礼な言い方になりますが、今回の授業は前回と異なって「担任の先生なら誰でもやれるよ!」というのを示したかったのかもしれません。外国語活動は特別なものではなく、算数や社会と同じように、担任の先生も、楽しく、気楽(?)に取り組めばよいのです。その意味では、授業者にとっては、逆に、いつもの授業とは異なる意図的な授業展開になったのかもしれません。