岡山県倉敷市立玉島小学校 江尻寬正先生の授業 2015年6月12日

教科としての英語:モジュール&ゲーム&コミュニケーション活動の融合

~岡山県倉敷市立玉島小学校 江尻寬正先生~

2015年6月12日,倉敷市立玉島小学校の江尻寬正先生の授業を参観しました。倉敷市の小学校は教育課程特例校の認定を受けており,市教委が独自に倉敷市カリキュラムを開発しております。玉島小学校も倉敷市のカリキュラムに沿いながら,小学校3年生から教科としての英語教育の実践・研究に取り組んでいます。次期学習指導要領の改訂では,高学年での外国語活動の教科化が想定されている中,教科としての取り組みがどのようになされているのか,大変興味がありました。

授業は5年生。単元目標は「①数を尋ねる英語表現に関心をもち,ゲーム的活動を通して友達に進んで尋ねたり,答えたりすることができる。②数の尋ね方や答え方を知り,使うことができる」となっていました。指導者の江尻先生は,昨年まで学級担任をしていましたが,今年度からは専科教員として高学年をはじめ,学校全体の英語教育を中心になって進めています。

授業はウォーミングアップの活動として「Question Time」がありました。この「Question Time」 は英語に慣れる活動として,モジュール(コミュニケーションタイム)で繰り返し行っている活動です。はじめに児童は全員立ち上がります。次に,先生から質問が出ます。答えた人から順に着席していきます。“How are you?” 等の易しい質問から始まって,最後は“Do you like Natto?” “What sport do you like?” などのような質問にレベルアップしていきました。

次に,「Talk Time」です。これもモジュールで繰り返し行っています。児童がペアになって英語で会話をしていきます。1分間という制限時間が設けられ,既習の英語表現を使って児童同士で質問し合っていきます。

ウォーミングアップが終わると,いよいよ本時の学習へと入っていきました。江尻先生は“How many pencils do you have?” という表現を紹介し,それがどのような場面で使われるのかを児童に考えさせました。そして,単に数を聞くという表面的な意味を越えて,鉛筆を忘れた時に,友達から鉛筆を借りたい時にも使う機能があることを児童に理解させていきました。

次に,「How Many Guessing Game」に入りました。これは,相手が持っている文具の数を予想してワークシートに数を記入します。そして,“How many…?”と聞いて,その数が当たれば得点できるゲームです。

Guessing Gameの後は,本時のメインとなるコミュニケーション活動に入りました。国語の授業では,ちょうどその時期に「広がる,つながる,私達の読書」という単元を平行して学習していました。国語では,持っている本の数や自分の好きな本を相手に紹介する内容となっているようです。そこで,江尻先生は,国語の授業とも関連づけながら,“How many books do you have?” や“I like …”を使って好きな本を紹介する活動を行わせました。活動の場面では,持っている本の数があまりにも多く,言いたい「数」を英語で言えない児童もいましたが,それでも,指で数字を作ったり,数字を指で空書きしたりしながら,児童の活発なやりとりが続いていきました。活動後の「ふり返り」の場面では,児童から,友達が予想以上に多い本を持っていたことや,自分が知らない本があったことなどが発表されました。

最後に,今日の“How many…?” の表現が,他にどんな場面で使われるのかを児童に考えさせました。英語の表現を具体的な場面の中で導入し,最後は,逆に,学習した表現が,どのような場面で使われるかを児童に考えさせています。「英語は場面の中に入れてこそ意味がある」という指導者の徹底した指導観が垣間見えた瞬間でした。

さて,この授業には沢山の素晴らしい点がありました。ここでは3点に絞って述べたいと思います。1点目はモジュールが本時の授業と効果的に結び付けられていたことです。「Question Time」や「Talk Time」をモジュールの時間で繰り返し行わせているために,児童は難なくそれらの活動を行うことができました。2点目は「ゲーム的活動」と「コミュニケーション活動」が上手く組み合わされていたことです。本時の「How Many Guessing Game」では,ゲームを楽しみながら,“How many…?”の表現に十分慣れ親しんでいきます。そして,How many… の表現が十分に言えるようになったところで,リアルな場面として“How many …? ”を使ったコミュニケーション活動が行われました。3点目は,授業のほとんどが英語で進められたという点です。江尻先生は,「教員が英語を使った指示を増やすことで,子どもたちが英語に慣れ親しむ機会が増え,その機会が増えることで,子どもたちのコミュニケーションの意欲や技能が高まる」と述べておられました。

教科になっても,その目標は「コミュニケーション」です。本時の授業は,ゲーム的活動とコミュニケーション活動が車の両輪のように結びつき,回転軸に油をさすように,上手くモジュールが組み合わされています。また,江尻先生は,担任の先生としての経験を活かし,他教科の内容を活用してリアルなコミュニケーションの場面を創造しています。

最後に,玉島小学校には1つの特徴があります。それは,くらしき作陽大学との連携です。授業における指導助言はもちろんのこと,授業者の英語での指示を増やすために,くらしき作陽大学の先生から,必要な時にはいつでも

メールを通して適切な表現や正しい表現などについての示唆を得ているそうです。また,大学も教員養成の一環として学生に授業を参観させているそうです。筆者が訪問した際も,学生が熱心に授業を参観していました。教員の英語指導力向上という点からも,また,大学での教員養成の充実という点からも,素晴らしい取り組みだと思いました。