長崎県佐世保市立鹿町小学校 佐藤利枝先生の授業 2014年2月18日(火)
広い意味のコミュニケーション能力を育てる
~長崎県佐世保市立鹿町小学校 佐藤利枝先生~
2014年2月18日(火)、佐藤利枝先生の5年生の授業を参観しました。この日はALTとのTTではなく、佐藤先生単独の授業でした。凍り付くような寒い日でしたが、教室は温かい雰囲気に包まれました。
単元名は「心をこめて お・も・て・な・し!」(Hi, friends! 1 Lesson 9, What would you like?)。本時の目標は「相手を意識してランチを作り、自分の思いが伝わるように工夫してランチメニューを紹介する」となっていました。
授業はいつもの“How are you?” のあいさつで始まりました。“I’m hungry.”と答えた児童には、「給食食べたばかりなのに、もうおなかすいたの?」とか、“I’m sleepy.” と答えた児童には「起きて!」など、児童の発話を拾い上げて応答するというところから始まりました。
クラスが和んできたところで、チャンツを使って“What would you like?”“I like 〇〇.” の練習をしました。佐藤先生は時折個人を指名して何が好きかを聞いていきます。指名された児童は“I like pizza.”などと答えていきます。すかさず、佐藤先生はピザが好きな別の児童を思い出して、“Do you like pizza too?”などと対話をつなげていきます。
この日の授業で使用する英語の表現に慣れたところで佐藤先生は本時の「めあて」を確認しました。前時に児童は友達の好きな食べ物などを既に調べています。今日は、それをもとに、その友達のことを考えながらランチを作っていくことになります。ランチを作るには材料をそろえなければなりません。そこで、「買い物」という場面を設定し、“What would you like? ”の表現を使うことになります。
活動を始める前に、佐藤先生は、コミュニケーションで大切なことは何なのかを児童と一緒に考えました。児童から「Thank youと言う」「発音に注意する」などの意見が出されました。佐藤先生はそれを全て認めたうえで「最も大切なことは心を込めること」と話しました。そして、今日のめあてを「アユッピー(鮎の形をしたキャラクター)」を使って確認しました。アユッピーは5人(匹?)いるそうですが、今日はそのうちの3匹が黒板に貼られていました。「目を見て話そうアユッピー」「気持ちを込めて話そうアユッピー」「相手のことを聞こうアユッピー」でした。
そして、店員とお客さんに分かれて買い物ごっこが始まりました。買い物が済んだら、あらかじめ作ったトレイに、お店で買ったものを貼り付けていきます。その作業が済むと、誰のために作ったランチなのか、どんな思いで作ったのかが伝わるように、みんなの前でランチを紹介します。児童の中には相手が嫌いな物をランチメニューに入れた子もいました。その理由を日本語で聞くと「栄養が偏らないように」というものでした。
本時の授業で佐藤先生が最も大切にしたことは、「思いを込めたコミュニケーションを行う」ということです。それはアユッピーにも表れています。授業後の反省会で、このアユッピーは外国語活動以外でも使っているということが分かりました。つまり、佐藤先生は外国語活動の時間だけに限定せず、日頃から「心を込めるコミュニケーション」を大切にしているのです。これは外国語活動で求めている「広い意味のコミュニケーション能力の育成」にも通じることです。外国語活動の時間にだけでコミュニケーション能力を育てようと思っても、それは無理な話です。学校教育のあらゆる場面でコミュニケーションということを大切にしているからこそ外国語活動でもそれが生きてくるのです。
外国語活動を通して、相手のことを考える機会を作り、コミュニケーションの大切さを考えたり、実際にコミュニケーションを体験したりすることは、とても大切なことです。友達関係が難しくなる時期だからこそ、しっかりとやっておかなければなりません。相手のことを考えながらランチメニューを作っていく。そして自分の作ったメニューを相手への思いを込めながら紹介していく。難しいところは、日本語でもよいことを認めて、なぜそのようなメニューにしたのかを発表させる。外国語活動では「心を込めて伝えること」を優先させながら、英語の表現を少しずつ増やしていく。それが広い意味のコミュニケーション能力を育むことにもつながっていくのでしょう。
授業後の反省会で分かったことですが、ランチを作る相手はクジ引きで決めたそうです。結果的に男子が女子のランチを、また、逆に女子が男子のランチを作ることも出てきます。この時期の児童は、みんなの前で、異性のことを考えて(?)作ったランチを発表するのは抵抗があるかもしれません。しかし、このクラスの児童は、おそらくこのことに恥ずかしがりながらも、相手のことを考えて作ったランチを楽しそうに紹介していました。聞いている児童もうれしそうでした。クラスに支持的風土があることが、今日の外国語活動を成功させていると感じました。心と言葉はつながっています。心を支える教室環境がないと言葉は出てこないと思います。授業がコミュニカティブになればなるほど教室環境を整えることが重要になってきます。その点では、とてもよく整った教室環境でした。
授業の前に校長先生は、「佐藤先生は学級経営が素晴らしく、どの教科も同じように素晴らしい授業をします」と話しておられました。今後、外国語活動が教科化された時には、専科教員が主導するのか、それとも学級担任なのかはよくわかりません。しかし、日本語でのコミュニケーションの基盤があってこそ英語でのコミュニケーションも可能であるように、学級経営力や授業力の基盤があってこそコミュニケーションの授業は成り立っていくのではないでしょうか。そのように考えると、小学校で外国語活動を担当するのは誰がふさわしいかはおのずと分かってくるような気がします。私にとっては、今後の外国語活動のヒントを見つけることができた貴重な授業参観となりました。