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Small Talk の意味と意義

2018年9月25日 - 5:37 PM

英語教育で使われる用語にTeacher TalkやClassroom Englishなどがあります。今回の学習指導要領ではSmall Talk という用語が登場しました。これは,Teacher Talk やClassroom English とは異なるものでしょうか。

Teacher Talk というのは,外国語の教師が,相手に合わせて,分かりやすいように外国語を調整しながら話すことです。これと同じ意味の用語として,caretaker speech(幼児を世話する人の言葉)やmotherese(母親言葉)などがあります。

Classroom English は一般に授業中に使う簡単な英語のことを指します。‟Open your book.“ ‟Let’s play a game.” ‶Good job!″など定型化している表現と言ってもよいでしょう。

それでは Small Talk とは何でしょうか。英語辞典を引くと「世間話」「雑談」という訳語が出てきます。知り合いのネイティブに聞いてみるとエレベーターが上がっていく間(または降りていく間)に話される「こそこそ話」だと説明していました。日常使われるsmall talkは使う人によってイメージが異なるのですね。

さて,英語教育用語として使うにはそれを定義して使う必要があります。使う人によって受け取るイメージが異なるのでは困ります。文科省が発行している『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』では 「Small Talkとは,高学年新教材で設定されている活動である。2 時間に 1 回程度,帯活動で,あるテーマのもと,指導者のまとまった話を聞いたり,ペアで自分の考えや気持ちを伝え合ったりすることである。また,5 年生は指導者の話を聞くことを中心に,6 年生はペアで伝え合うことを中心に行う(p.84)」と説明しています。

この定義を踏まえると,相手に合わせて,外国語を調整しながら話すこという点ではTeacher Talk と重なるところがあります。しかし,「あるテーマのもとで,まとまった話をする」という点ではTeacher Talkの定義と異なっています。また,Classroom English がやや定型的な英語表現であるのに対してSmall Talkは「自分の考えや気持ちを伝え合う」ことですので,Classroom Englishの定義とは異なります。‟Let’s play a game.“ は活動を進めるために必要な表現ではありますが,まとまった話でもありませんし,指導者の気持ちや考えを伝えるためのものでもありません。

さらにSmall TalkがTeacher Talk ともClassroom English とも決定的に異なるのは児童同士の対話もSmall Talk としている点です。

わざわざ新しい用語としてSmall Talkを導入した理由は何でしょうか。私は新しい学習指導要領の目標を実現するためには必要だったためではないかと考えています。新しい学習指導要領では「言語活動」が再定義され「自分の考えや気持ち」を表現する活動と定義しています。また,領域別の目標として「やり取り」が新たに加わっています。このSmall Talk は指導者の「考えや気持ち」を表現する絶好のチャンスです。また,6年生では児童同士の「やり取り」も増えることになりますから,児童同士のSmall Talk も進めていく必要があります。

ある研究会で,「Small Talk は担任の先生には難しいので文科省の教材を聞かせておくだけで良い」と発言された先生がおられました。聞かせておくだけならリスニング活動にはなりますがSmall Talk にはなりません。

また,先日参観した授業では文字を導入するために身近な英語の看板を導入する活動をALTと一緒に行っていました。これ自体はとても素晴らしい活動ですが,指導案にはSmall Talk と書かれていました。これはSmall Talk ではありません。なぜなら「まとまり」がなく,指導者の「考えや気持ち」は皆無だったからです。このような活動は,Oral introduction と呼ばれていたもので,従来から行われていたものです。

新しく定義されたSmall Talk によって,指導者は既習表現を自分のSmall Talkの中で繰り返し使うこともできます。児童は学習した表現を何度も聞くことになりますから定着につながります。また,未習の語彙や表現であっても,まとまった話ですから,その話の場面や状況から児童は英語を聞きながら意味を推測する力もつきます。

何と言っても,身近な話ですから,興味・関心も高まります。自分たちとは関係のないMary やTom の話ではないのです。

この,Small Talk を正しく理解して実施していくことが新しい学習指導要領の目標を実現する鍵となると私は考えています。

 

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