沖縄県宜野湾市立普天間小学校 玉城千夏 先生の授業 平成26年6月26日

先生はマジッシャン

~沖縄県宜野湾市立普天間小学校 玉城千夏 先生~

平成26年6月26日に参観した沖縄県宜野湾市立普天間小学校1年4組の玉城千夏先生の授業を紹介します。宜野湾市は英語特区の認定を受け、1~4年生は週1時間、5~6年生は週2時間の英語の授業を行っています。英語教育には熱心な地域で、市の教育委員会は中学生に対して英検受験料の半額補助なども行っています。

授業は担任の先生とJTE(英語講師)の平良美乃先生のTTで行われました。本時のねらいは「①歌やチャンツを通して色の表現に慣れ親しむ。②既習の表現を使いながら友達とのコミュニケーションを楽しむ」となっています。

英語の挨拶とウォーイングアップの歌が終わると、担任の先生のマジックが始まりました。担任の先生は、“What color is this?” と尋ねて水の入ったペットボトルを見せました。児童はきょとんとしています。次に、担任の先生は、“I am a magician.”と言いながら“Three, two, one!”と叫んだかと思うと、ペットボトルを上下に振りました。すると不思議なことに水の色が「赤」に変わりました。児童は大喜びです。聞かれもしないのに“Red, red, red!” と大合唱です。そこで、JTEの先生と一緒にRed の発音の練習をしました。児童は「先生、他の色もできるの?」と聞いてきます。担任の先生は「もちろん」という表情をしながら、再び、“Three, two, one!” と言ってペットボトルを振ります。すると今度は水の色が「緑」に変わりました。JTEの先生も不思議そうに“It changed green.” と言いながら、green の単語を何度も聞かせていきました。

次に、電子黒板に注目させます。電子黒板にはスイカの写真が出ています。“What color is it?” と聞いた次の瞬間、スイカの中身の写真が現れます。何とそれは黄色のスイカでした!その他、青リンゴや白いトウモロコシなど、児童の予想を覆す色の果物が、まるでマジックにかけられたように次々と現れました。そのつど、JTEの先生と児童の間では“What color is this?” “It’s yellow.” のような会話が続いていきました。

今度はみんなで「Rainbow」 の歌を歌います。色の名前が次々と出てきます。色の名前に十分慣れ親しんだところで、カード集めの活動に入りました。“Red, please!”などといいながら、自分の好きな色のカードを集めていきます。最後に「Brown Bear, Brown Bear, What do you see?」の絵本の読み聞かせを行いました。この絵本には色とりどりの動物たちが登場します。先ほどまでの歓声が嘘のように、教室はシーンと静まりかえり、児童は絵本に集中していました。

本時の授業は集中力が低く、また、理解力も十分ではない低学年の児童には相応しいものとなっていました。まずはマジックで児童の興味を引きつけ、ここで本時の目標である色の表現を導入します。興味を引きつけたところで、活動を変え、児童の興味を引く果物の写真を使って色の言い方を確認していきます。授業の中盤あたりでは、気分転換も兼ねて「Rainbow」 の歌を歌います。ここまで来ると、児童は本時の目標表現に十分に慣れ親しんでいます。ですから、次のカードゲームはスムーズに行えるようになります。授業の終盤では、覚えようと努力をしたつもりはないのですが、今日の表現を使って、友達と楽しく英語でコミュニケーションができるまでになっています。そして、最後に、静かに「Brown Bear」の絵本を楽しんで授業を締めくくります。

前述したように、低学年の児童を授業に集中させるのは、なかなか難しいものです。また、外国語活動は「活動」と呼ばれているためか、十分聞かせることもなく、教室を動き回ることが多いように思います。しかし、「話す前に十分聞かせる」ことが言語習得の順序です。十分英語を聞いてこそ、その発音を真似ることができます。

特に低学年の外国語活動で大切なことは“here and now”の原則です。子どもの関心の大部分は、現在自分の身近に起こっている出来事です。英語を聞かせることが大切だからと言って、今、目の前で起こっていることでなければ、英語のCDをどんなに聞かせても上手くいきません。児童に聞く気が起こりませんし、理解も難しくなります。

本時の授業では、具体物を使い、実際に児童の目の前で起こる出来事を通して担任の先生やJTEの先生は英語を聞かせていきました。具体的な場面ですのでJTEの先生が“It’s clear!”と言っても児童はclear が「透明」であることを、色のついた水との比較で直ぐに理解していました。赤くなった水をさして “Do you want to drink it?” と聞くと、多くの児童が「飲みたい!」と即答していました。日本語に訳さなくても“hear and now”の原則で英語を聞かせていけば、児童は理解していくことが分かります。また、色の表現が何度も繰り返されますが、場面が異なり興味を引く活動なので、児童は飽きることがありません。

Brown Bear の絵本も効果的でした。絵と一緒に英語を聞いていくわけですから、児童に理解できないはずはありません。児童は大好きなテレビ番組を見る時のような表情で、時には先生と一緒に発話しながら絵本を楽しみました。

小学校の外国語活動を参観していると、私には小学校の先生がマジッシャンに見える時があります。普段は見過ごしてしまいそうなモノが素晴らしい教材に変わります。騒がしい教室が一瞬にして静かな教室に変わります。いちいち日本語に訳さなくても児童にその意味を理解させてしまいます。遊んでいるように見えても、児童はいつのまにか沢山のことを学んでいます。本時の授業を見せてくれた担任の先生とJTEの先生は、まさに一流のマジッシャンでした!