宮崎県えびの市立上江小学校山口真由美先生の授業 2014年10月7日(火)
場面の力と担任の力の輝く授業
~宮崎県えびの市立上江小学校山口真由美先生~
2014年10月7日(火)、宮崎県えびの市上江小学校山口真由美先生の授業を参観しました。山口先生はえびの市からスーパーティーチャーの認定を受けています。学級経営が素晴らしく、算数や国語の指導においても指導的な役割を果たしていると校長先生からお聞きしました。
対象学年は4年1組。本時の目標は「~を持っていますか、~はどこにありますか、の表現を使って、友達とのコミュニケーションを図る」となっています。簡単な挨拶をすませたあと、まずは、本時の活動で使用する文房具の言い方を復習(練習)しました。その後、山口先生とALTのGavin 先生は「絵を描きたいけれど、絵の具がない・・・」という場面設定の中で “Do you have …?” の導入を行いました。二人の対話を聞かせた後、山口先生は、「今、先生とGavin先生はどんなことを話しましたか」と児童に訊いていきました。児童は「ガビン先生はクレヨンがないといっている」「山口先生がクレヨンをあげた」「絵具はもってない」「どこにあるか聞いている」など、断片的ではありましたが、聞き取った内容を発表していきました。山口先生は、児童の発話をつなげながら対話の内容を説明しました。
次に、“Where is the…?” の導入を行いました。黒板に貼られた大きな絵を見せながらon, under, in が視覚的にも理解できるようになっていました。その後、本時のメインアクティビティーに入ります。児童は、山口先生が用意した封筒に入った文房具カードを持っています。封筒の中に入っている文房具は一人ひとり異なっています。児童はお互いどうし、次々と質問しながら自分の必要な文房具を集めていきました。
一通り、活動が終わったところで山口先生は、「まだ、見つかっていない文房具はありますか」と児童に訊きました。みんなの手が一斉に上がりました。そして、児童を指名して、みんなに自分が必要なものを聞いてみるように伝えました。この瞬間、ペア活動が、全体の場で、全員に向かって英語を話す活動となりました。文房具が全て集まった段階で終わるのではなく、いくつか残した上でこの活動を終えたのは、自然な流れの中で、全体で発表させるという山口先生の意図があったことが後でわかりました。また、後述するように、集めることができない文房具をいくつか残していました。
最後にFollow up time がありました。必要な文房具を集める活動を行ったのですが、定規や計算機など児童の手に入らなかったものがあります。当然、児童は「定規はどこにあるの(誰が持っているの)」ということを聞きたくなります。山口先生はそこで、「~はどこにありますか」という表現を思い出させ、“Where is the ruler?”という表現を引き出していきました。そしてGavin先生にみんなで“Where is the ruler?” と訊きました。Gavin先生は、「どこにあるのかな」というそぶりを見せながら、“Oh, it’s on the table.” と答えました。
本授業の良さは明確な場面の中でたっぷりと担任の先生とALTの先生の対話を児童に聞かせたことです。言葉は場面の中で使って初めて生きてきます。たとえば、同じ“Do you have money?”でも、ニューヨークの街中で、一人歩きの観光客を狙った強盗が使う時もあるでしょう。また、やさしいお父さんが、パーティーに出かけようとしている大学生の娘に “Do you have money?” と言う時もあります。場面によって、その言い方は全く異なったものになります。前者は、もちろんドスの効いた怖い言い方になるでしょうし、後者はお父さんの優しい言い方になります。ですから、場面がないと、同じ“Do you have money?” でも、どのように発話をして良いのか分かりません。
今回の導入では、山口先生とGavin先生の間で、しっかりとした場面設定がなされていました。絵を描く道具がないので、「もしあったら貸してほしい」という気持ちを込めて“Do you have a paint brush?” が発話されます。ですから、答えるほうも、もし持っていない場合は、要望に応えられないので“I’m sorry.” という言葉が自然に出てきます。小学校の外国語活動では「~を集めよう」ということで、なぜ集める必要があるのかが明確にされないまま、“Do you have …?” を発話させる場面がよく見られます。その場合は、コミュニケーションをしているようで実は文型練習をしているだけに過ぎません。この点から、場面をしっかり設定した上で行われた今回の“Do you have…?” の導入は適切でした。したがってメインのアクティビティーも意味のあるものになりました。
次に、前述したことと重なってしまうのですが、自然な場面の中で未習・既習に拘らずに、ある程度の長さの英語を聞かせたことです。“I want to draw a picture.” や “I need a crayon.” なども、なんのためらいもなく(?)二人の先生の間で使用されました。しかし、使用される場面が明確であれば、その意味は推測可能になります。かりに正確な推測ができなくても「曖昧さに耐える」ことが語学の学習では大切です。「なんとなく、その意味がわかる」という体験こそ重要です。加えて、今回はかなり長い時間の対話(時間を測ったわけではありませんが約4~5分)を聞かせました。しかし、児童は、concert pseudo-passiveness(=コンサートの聴衆のように、静かに、受け身のように見えるが、実は能動的で、全身全霊で発話者に集中している)を持って聴いていました。このような態度は一朝一夕にできるものではありません。英語を注意深く聞かせる技術と、日ごろの学級づくりが影響しているのではないかと思います。授業の前に、校長先生が学級経営も素晴らしいと言っていた意味が分かりました。
活動の中には担任の先生の細かい配慮もありました。授業後の反省会で分かったことですが、実は文房具の中にA君だけしか持っていないものがありました。ですから、A君のところに行かないと自分の必要な文房具が手に入りません。A君は友達との関係がうまく作れない児童だそうです。A君はこの授業で多くの友達から話しかけられました。また、自分の持っていた文房具を友達に分け与えた経験をしたことは、A君にとっても素敵な時間になったのではないでしょうか。