英語の授業は英語で
「英語の授業は英語で」をどう考えるか
新学習指導要領(高等学校)では「授業は英語で行うこと」とする文言が明記されています。このことは,逆に言うと,日本における英語教育は,いまだに文法訳読式の授業が続いている現実を示しています。このことは高等学校だけではなく,中学校にもあてはまるのではないでしょうか。
教育実習生の中には「どれぐらい英語を使えばいいのですか?」「生徒は英語を聞いてどのぐらい分かるのですか?」という質問をしてくる学生がいます。私の答えは,「できるだけ英語で,しかし,生徒が理解できることが前提です」というものです。
ただし「できるだけ英語で」という場合,当然,コミュニケーションという観点がなければなりません。“Repeat after me.”と先生が授業時間の全てを使って,いろいろな文を読み上げ生徒に言わせたとしても,これは英語を使った授業とは言えません。そこには英語をコミュニケーションとして使うという視点がないからです。
授業を英語で行うという意味は,英語をclassroom discourse(授業を進めるための英語)として使うということです。ですから,授業をすすめるためのClassroom English はもちろん,文法の導入や,内容の導入,内容のチェックや,生徒との質疑応答などを英語で行うということになります。もし仮に日本語で授業をやっている人でしたら,その日本語を英語にするということです。日本語はclassroom discourse として使っているはずです。ですから,それを英語でやるということになります。そうすると,どのような事が起こるかというと,まさに授業そのものが英語でのコミュニケーションの場に変わっていきます。
日本語で授業をしていた人に私がまずお薦めするのは,授業の始めに行うスモールトークです。前事に学習した文法項目や単語を使いながら,先生の考えていることや,週末にしたことなどを英語で話していくのです。先生自身のことですから,生徒も興味があるはずです。そして生徒は実際の場面で既習事項がどのように使われるのかも知ることになります。まさに,それは“真正”のコミュニケーションになります。生徒が先生の話しに興味があって質問してきたら,そこで英語で対話すればよいのです。特別にコミュニケーション活動を設定しなくても,この活動自体がコミュニケーション活動になります。
また,すくなくても内容の導入などは英語でやることです。本文を理解するには,本文の背景を理解することが必要です。この背景を英語でやることです。これは,教科書に書かれていることではなく,教科書には書かれていないことです。生徒にとっては,まさに“知らない情報”を英語を通して理解する場面になります。英語を使うチャンスです。
文法の導入においても,場面を設定して,その文脈の中で,英語で導入することは十分可能です。私の中学校教師の経験からすると,文法の説明も英語ですることは十分可能です。日本語で文法説明をする場合も,「文法説明は簡単に,例文や練習は十分に」ということが基本です。日本語でやると長々となりがちな文法説明も英語だとかなりシンプルになることを私は経験を通して体験することができました。
実習生の授業でも,make +(人など)+(形容詞)の導入として,「なはみずき」のイントロを聞かせた後,“I hard this song on TV last night. I saw the movie too. The movie made me sad. Hanamizuki is a tree. This picture makes me happy.”などとハンミズキにからんで上手く本時のキーセンテンスを導入した学生がいました。
また,授業進行に使う英語はそんなに難しいものではありません。先日行われた実習生の授業で,実習生が授業の中で使った日本語を書き出してみました。内容理解を目的とする単元でしたが,使われた日本語は「この写真からどこの国を連想しますか」,「この写真は沖縄みたいじゃないですか」,「これは伝統的な祭りですね」「ココナツ食べたことある人いますか」「分かる人はいますか」「この赤い線,見えますか」「英語でなんて言うか分かる人はいますか」「ここは赤道に近いのです」などでした。これらの日本語は直ぐに英語に直せるはずです。なぜ,そのような簡単なことを英語で言わないのか不思議に思います。
最後に生徒が理解できることが前提です。難しい単語は易しい単語に変えたり,言い直したり,説明したりしながら使うことです。生徒の表情もよく観察しながら,また,生徒の理解を確かめながら行うことが大切です。
ぜひ,中学校でも「英語の授業は英語で」に取り組んで欲しいと思います。
2010年9月14日