Posted in 日々の想い
生徒の弁当を持ってきた先生のこと
ある講義の中で、学生から高校の遠足の時に、ある生徒にこっそり弁当を渡した先生の姿が忘れられないという話を聞きました。その生徒は、いつも昼食時間になると、どこかに消えていなくなっていたのだそうです。級友たちは、その理由がまったく分からなかったそうですが、実は弁当を持ってきていなかったからだったようです。その生徒も,本当はみんなと一緒に弁当を食べたかったと思います。しかし,弁当を持っていない自分がみんなと一緒にいることで,他の人に気を使わせたくないと思ったのでしょう。担任の先生はそのことを知っていたのでしょう。遠足の時にその子の弁当を用意してきていて、それをこっそりと渡したというのです。
学校の行事などで突然いなくなる生徒がいます。何も知らずに,ただ突然いなくなったというだけで生徒を叱ることがあるとすれば,教育者としては失格かもしれません。他の生徒が知らなくても、教師は知っておかなければならないことがあるのかもしれません。
実は、私も,中学校教師駆け出しの頃,大きな失敗をしました。私のクラスの男子生徒が授業を抜け出して突然いなくなりはじめたのです。1学期はそんなことは全くなかったのですが,2学期になって突然いなくなることが多くなったのです。私はそのたびにミニバイクに乗って彼を探し回りました。たいていは家の近くにいました。理由を聞くと「無い!」とだけ答えるのです。しかもそれが何度も繰り返されて,理由は毎回「無い、特に無い」だったのです。私はついに堪忍袋の緒が切れて,この子に数発のビンタをしてしまいました。(今なら体罰で訴えられるはずです)
しかし,彼が卒業して後に,保健の先生から聞いた話です。なんと,その時,その子の両親は,離婚騒動の最中で,その子は母親の身が心配で心配でしょうがなかったのではないかということでした。登校後も心配になり,家に戻っては母親の様子を伺っていたのでしょう。事態は中学生の男の子にはとても耐えられるものではなかったということが後になってわかりました。
私はその時,自分の未熟さを恨み,教師としての自信を失いました。どんなに後悔したかわかりません。教師を辞めようとも思いました。しかし,それを踏みとどめたのは,偶然再会した時の彼の笑顔でした。お互いに何も言葉は出てこなかったけれど,「もうわかっている・・・」というメッセージだけが交換されました。
以来,私の生徒を見る目が変わりました。一人ひとりが,人には言えない人生を背負っていることが実感としてわかりました。教師には,生徒一人ひとりの人生を思いやる想像力が必要だと思いました。
大学も学期末に入りました。大学英語やTOEICのクラスの出席簿を見ると,時々欠席する学生,そして,途中から出席しなくなった学生もいます。成績評価もしなければなりません。自分の惨めさを思い出しながら、しっかりと学期末を締めくくりたいと思います。