Posted in 日々の想い

英語専科教員は誰が望ましいか

2018年11月7日 - 8:44 PM

英語専科教員は誰が望ましいか

小学校への英語教育が議論された初期(1990年代)の頃から,担当者は誰が望ましいかという事が英語教育関係者のみならず,多くの教育関係者や一般市民を巻き込んで議論されてきました。現行及び新学習指導要領では「学級担任の教師又は外国語を担当する講師が指導計画を作成し,授業を実施するに当たっては,ネイティブ・スピーカーや英語が堪能な人材などの協力を得る等・・・」と示されています。「外国語を担当する講師」は英語専科教員等を指していると考えられます。英語専科教員という場合,小学校の担任教師を英語専科教員とする場合と,中学校教員や外部人材を英語専科教員とする場合があります。ここでは,「英語専科教員は学級担任か,または外部人材(中・高等学校英語教員を含む)か」ということについて私の考えを述べたいと思います。

現時点までの国の動きをみますと,学級担任が指導力を高めて教科化に対応するという方向性が示されています。国としては,教科化に対応できるように,<中央研修⇒中核教員研修⇒校内研修>というカスケード型の研修を実施しています。また,移行期においては学校長を中心とした校内研修を確実に実施することを求めています(文科省「小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック」)。さらに,文科省は,学級担任が専科としての指導力を高めて指導にあたることができるように,「小学校教員のための英語二種免許[英語]認定講習」を各県1機関に委託して進めてきました。琉球大学においても,沖縄県教育委員会との連携を図りながら,この事業を進めてきており,現在まで53人の小学校教員が免許認定講習を受けています。本年度末には,34人前後の先生方が中学校英語二種免許を取得することが可能な状況となっております。

小学校英語科(5,6年)を担当するのは誰が望ましいか,ということに関して,私は小学校教師が指導力を高めて専科教員として指導するほうが望ましいと考えています。一方で,その対応が難しいことも十分予想されるため,中学校英語教師が英語専科教員として小学校で指導することも併せて検討することが必要だと考えています。その理由を筆者らが行ったアンケート調査(1~4までは平成26年の実施,5は平成30年実施)を基に検討したいと思います。

1.教員養成系大学教員へのアンケート調査

筆者らが全国の教員養成系大学担当教員へ「専科として最も望ましいのは誰か」と質問したところ(60大学のうち14大学から回答),①「小学校の担任の先生で、英語に興味があり、英語が得意な人が望ましい」と回答した大学が78.6%,②「中学校(または高校)の英語教員が望ましい」が28.6%、③「地域に住んでいる方で、英語ができる人」は0%,④「外国人講師」は7.1%となっています。①の理由としては,ア小学校教員であれば児童の状況をよくわかっており、発達段階に応じた適切な指導ができる可能性が高いと考えられるから,イ英語ができるという条件の前に、教師であるとか教育に興味があるという条件がくるべき。ウこれまで小学校で培われてきた外国語活動のノウハウを今後うまく継承、発展させていくことが出来るのは、同じ文化を共有している小学校教員であると考えるから,などとなっています。教員養成に携わっている教員の意識としては,中高の教員に向いている学生と,小学校の教員に向いている学生がいることが認識されているのではないかと思われます。

2.学生へのアンケート調査

琉球大学教育学部の学生で小学校教員を目指している学生(100人)と法文学部を中心とした中高英語教員を目指している学生(101人)にアンケート調査を行ったところ,小学校教員を目指している学生の60%,中高英語教員を目指している学生の71%が英語専科教員が中心になって教えたほうがよいと回答しています。さらに「英語専科は誰が望ましいですか」と質問したところ,小学校教員を目指す学生の回答で最も多かったのは「小学校の担任の先生で、英語に興味があり得意な人」(49%)でした。一方で「自分が専科として教えてみたい(強くそう思う[2%]+できればそう思う[10%])と回答した学生は12%にとどまっています。小学校教員を目指す学生は,英語専科は同じく小学校教員を目指している人の中から養成して欲しいと考えていますが,自分が希望しているかというと,そうではないことがわかります。筆者らの聞き取りからも小学校の教員を目指す学生は,担任を希望している学生が圧倒的に多いことがわかりました。

3.   現職小学校教員(92人)へのアンケート調査

「小学校で英語が教科として導入された場合、中心になって教える人は、誰が望ましいですか。」という質問をしたところ,87%が「英語専科教員が望ましい」と回答しています。さらに,「専科は誰が望ましいですか」と質問したところ,31%が「小学校の担任が専科になったほうがよい」,41%が「中学校教員が専科になったほうがよい」,2%が「地域の人材を活用したほうがよい」,20%が「ALTなどがよい」と答えています。この回答から,小学校教員の意識としては,中学校教員,または小学校教員に英語専科教員になって欲しいという希望が高いことがわかります。地域人材と答えた小学校教員はわずか2%にとどまっています。

4.現職中学校教員(25人)へのアンケート調査

中学校の教員に「小学校の専科教員として望ましいのは誰ですか」と質問したところ55%の教員が「中学校教員」と答えています。また,中学校教員に「小学校で専科として教えてみたいですか」と質問したところ,「強く希望する」が11%で,「できればそうしたい」が49%となりました。

5.小学校外国語活動及び外国語を指導することに対する自信

平成30年1月に沖縄県内451人の小学校教員を対象にアンケート調査を行いました。2020年度から始まる教科・外国語に対する自信について質問したところ「とても自信がある」が2%,「まあ自信がある」は14%,「あまり自信がない」は59%,「まったく自信がない」が25%となっていました。高学年の外国語は教員の3分の1が担当することになります。せめて30%程度は「自信がある・まあ自信がある」と答えて欲しかったのですが,結果は上述したとおりとなりました。

まとめ

学習指導要領には「高学年の外国語科の目標を踏まえると,広く言語教育として,国語科をはじめとした学校における全ての教育活動と積極的に結び付けることが大切である」と示されています。外国語科の目標がスキルのみを中心としているのではないことがわかります。また,外国語教育には,他教科とは異なる「不安感」が絶えず付きまとうことがこれまでの研究からわかっています(Horwitz, 1986; 川内2016,他)。「身近な人,自分自身を理解している人」が指導者として望ましいことも多くの研究が示唆しています(松宮,2012,ほか)。そのため,小学校英語は学級経営(支持的風土づくり)が鍵とも言われてきました。

小学校で扱う英語は中学校レベル(英検3級)を超えるものではありません。小学校の教員は中学校,高校,大学と英語を学んできていますから(教員採用試験にも合格するほどの優秀な人たちです),本来ならば英検2級(高校卒業)レベルの英語力を身に付けていることは当たり前です。しかし,そうなっていないことが現実で,それは日本の英語教育の失敗を,残念ながら白日の下に晒す結果となってしまいました。(筆者らの調査では,自分自身の英語力を英検2級以上と自己評価している教員は15%でした。)

筆者は,これまで小学校で多くの授業を参観してきました。小学校の先生方の授業力の高さには,いつも驚かされます。しかし,英語力という点では課題も見えます。今後は,英語に得意な先生や,外国語の授業に興味ある先生方が英語力等を向上させて専科として指導することが望ましいと思います。しかしながら,アンケートでも見てきたように,全ての小学校教員にそれが可能かというとそれも難しいと考えられます。

そこで,「中学校教員の力を借りる」という方向性が模索されることになります。最も「手っ取り早い」方法と考えられていますが,「最も危険」な方法になる可能性もあります。研修もなく,中学校と同じような方法で指導すると,逆に小学校外国語の目標を達成することが難しくなる可能性もあります。

筆者は,中学校の教員の60%が小学校の専科を希望している(「できればそうしたい」を含む)ことに驚きと不安を感じています。課題を抱えているのは中学校の英語教育も同様です。むしろ中学校英語教員には中学校の英語教育にどっぷりとのめり込んで欲しいとさえ思っています。中学校で優秀な英語教師は小学校でも上手く教えることができます。しかし,逆のケースも出てくる可能性もあります。中学校教員を小学校に配置する場合は慎重になるべきと考えています。

まずは小学校の先生の中から専科教員を養成し,足りない分については,中学校の教員の人選を慎重に行いしっかりと研修を実施したあとに小学校英語専科として活用することが望ましいと考えます。

【参考資料】

大城賢・東矢光代「外国語活動の教科化にともなう教員養成カリキュラム開発」文科省委託事業報告書,2015年3月

大城賢・深澤真「小学校外国語活動及び外国語導入に対する小学校教員の意識」琉球大学教育学部紀要,2018年9月

文部科学省「小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック」文科省,2017年6月

Leave Comment